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ブラジルのアナログ・レコード市場の今。プレス会社は3社に

vinilbrasil
2019年に設立されたヴィニウ・ブラジル社のレコードプレス機材(写真/Divulgação)

日本レコード協会(RIAJ)が1957年(昭和32年)に制定した「レコードの日」(11月3日)に合わせて、日本のアナログレコードのプレスメーカー、東洋化成株式会社は2015年から、アナログレコードの催事を開催している。この催事は2020年はコロナ禍により中止となったため、2022年で7回目となる。

レコードの日には、この日に向けてプレスされたアナログレコードが一斉に発売される。過去にLPレコードで発売されていた作品の再発売盤もあれば、近年にCDのみで発売されていた作品をアナログ化して発売するものもある。

ネット配信による音楽の消費傾向が拡大する中、アナログレコードの需要は世界的に増加傾向にある。現在、世界では30か国に95社のアナログレコード製造会社があるだけだといわれている。

日本でも、アナログレコードをプレスする会社は数年前までは東洋化成1社となっていたが、2018年にソニーミュージック・エンターテインメントがこの事業を復活させ、現在2社となっている。

ソニー・ミュージックは同社のスタジオにラッカー盤カッティングマシン、大井川プロダクションセンターにアナログレコード用プレス機を導入して、2017年~2018年にカッティングマスター制作からスタンパー製造、プレスに至るまでのアナログレコードの生産工程を一貫して自社で行える環境を整えたという。自社生産の再開第1弾作品として、2018年3月21日に大瀧詠一の「EIICHI OHTAKI Song Book Ⅲ 大瀧詠一作品集Vol.3 夢で逢えたら」と、ビリー・ジョエル「ニューヨーク52番街」がリリースされた。

CDが普及した80年代後半以降に活躍の場が失われていたカッティングマシーンやプレス機の設備が再び整えられ稼動しはじめているのは日本だけではない。音楽大国ブラジルでは2022年現在、3社のアナログレコードのプレスメーカーが活動を行っている。

ブラジルと世界のアナログレコード市場について、ブラジル作曲家連盟、現地メディア「ペケーナス・エンプレーザス・イ・グランジス・ネゴーシオス」、「エポカ」が報じている。

IFPI(国際レコード産業連盟)の年次報告によると、世界のアナログレコード市場は2021年だけでも前年比で51.3%増加しており、全世界で30億米ドルの収益が生み出されたという。

この収益の3分の一を稼いでいるのがアメリカ合衆国で、アメリカレコード協会(RIAA)によると2021年の成長率は61%だったという。

しかし、ブラジル作曲家連盟によると、世界中でアナログレコードの需要が高まっており、供給が追い付かない現象が起きているという。IFPIも、現在世界のLPの年間生産能力は約1億6000万枚だが、世界の需要はすでに3億2000万を超えていると指摘する。

アナログレコードの供給不足には、2020年にアメリカ合衆国カリフォルニア州にある、アナログレコードの製造に欠かせない原盤となるラッカー盤を製造する世界に2社しかない会社のうち1社であるアポロ・マスターズの工場が大規模火災によって消失したことも影響していると、同連盟は指摘する。加えて、ロシアによるウクライナへの侵攻を背景に石油の価格が高騰したことも追い打ちをかけているという。

2001年に英国のポップスター、アデルが新作「30」を発売する際に配信と同時にアナログ盤を全世界で50万枚同時発売した際には、世界中の工場がアデルの発注を請け負ったため、他のアナログ盤の制作スケジュールに影響が出たというニュースも記憶に新しい。

そんな動向を背景に、アナログレコード産業には様々な変革が起きつつある。

今年(2022年)4月には、33台のプレス機を擁するオランダの老舗プレス工場であるレコード・インダストリー社は、欧州のアナログレコード市場に大きな影響力を持つディストリビューター、バータス・ディストリビューション社との合併を発表。同社は月産枚数を現在の倍となる2500万枚と見込んでいるという。

この数字は、ウルフパックジャパン社を通じて2017年に日本にも進出した、チェコにある世界最大といわれるプレス工場ジーゼット・メディア社の2020年のプレス枚数である3800万枚には届かないものの、決して小さな数字ではない。

レコード・インダストリー社のトン・ヴェルミューレン代表とバータス・ディストリビューション社のヤン・ファン・ジルトマーシュ代表はブラジル作曲家連盟に対しそれぞれ、「新しい体制は、国際的なアナログ盤市場の配送の障害を解決するだけでなく、より多くのアーティストやバンドがリリースに際しフォーマットの選択肢が増やせます」、「私たちは、ヨーロッパでも例を見ない合併によって得た専門知識を生かし、今後数年にわたり、LP生産のスムーズで継続的な成長を追求したい」とコメントしているという。

ブラジルでは経済危機、Covid-19のパンデミック、インフレの影響で国民の購買力が弱まり、レコード産業にも影響は出ているという。しかし、ヴィニウ・ブラジル社のミシェウ・ナッチ代表によると、パンデミックの影響によりキャパの50%まで生産を減らさなければならかったが、2022年には生産が回復すると見込んでいるという。

ブラジルでは長らくアナログレコードの製造を行っていたのは、リオデジャネイロ州ベウフォー・フォッショ市に1999年に創設されたポリゾン社のみだったが(2007年に一度閉鎖された後、2009年に再開した)、2019年に、音楽家でもありDJでもあるミシェウ・ナッチ氏がサンパウロ市バーハフンダ地区でヴィニウ・ブラジル社を、音楽家であり詩人のシウヴィオ・フラガ氏がリオ州のペトロポリス市でホシナンチ社を立ち上げた。

子どもの頃からアナログ・レコードが大好きだったというミシェウ氏は、2013年に自身の作品「ソラール・ソウル」をアナログ盤でリリースするため、500枚をチェコのプレス会社に発注した際に、ブラジルでのアナログレコードの供給が需要に追い付いていないことを感じ、アナログレコード市場への参入を考え始めたという。

国内の大手レコード会社のひとつであるコンチネンタウ社がかつて使っていたプレス機が7台、廃品処理場に放置されていることを知ったミシェウ氏は、このプレス機を購入。1953年に製造され、約20年放置されていたこれらの機材を修理することからすべてが始まった。

現在ブラジルでアナログレコードを製造する3社目となったホシナンチ社は、録音から制作までを行うインディペンデントのレコード会社で、商業ベースではなく自分たちが録音したい音楽を制作するレーベルだ。ジョアン・ドナート、ジャルス・マカレ―、アントニオ・アドウフォなどが契約しているほか、2021年にCovid-19で他界したレチエリス・レイチもレーベルの主要なアーティストだった。自社で録音スタジオとNewbilt社のプレス機を所有して、自社レーベル作品をデジタルだけでなくアナログ・レコードでも発売するほか、トレス・セロスなど他社レーベルのプレスも請け負う。

ブラジル全国レコード工業協会によると、2021年の国内のアナログレコードの販売収益は230万レアルで前年比では28.1%の増加だったという。CDは56.5%増で700 万レアル、DVDは337%増で280万レアルの収益だったという。

(文/麻生雅人)

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