文化庁映画賞・映画功労部門で、ブラジル移民記録映画を所蔵する神戸映画資料館の安井喜雄代表、表彰される

2022年 10月 26日

001
第19回文化庁映画週間令和4年度文化庁映画賞 映画功労部門の受賞者。前列左より、安彦良和氏、安井喜雄氏、弦巻裕氏、都倉俊一文化庁長官、坪井一春氏、田村實氏、笠松則通氏(撮影/麻生雅人)

10月24日(月)、第19回文化庁映画週間令和4年度文化庁映画賞の贈呈式が東京ミッドタウン日比谷 BASE Qにて執り行われた。

ブラジル移民を呼び掛ける1934年のニュース映画「海外移住組合の移住地実況」(海外移住組合連合会・撮影、拓務省・編集)など、貴重な映画の収集・保存・上映を行うプラネット映画資料図書館・神戸映画資料館の安井喜雄代表が映画功労部門で表彰された。

文化庁映画週間では、優れた文化記録映画や永年にわたり日本映画を支えてきた人たちの表彰や、記念上映会、シンポジウムなどが行われる。東京国際映画祭の期間中に開催されることから、同映画祭がスタートした10月24日(月)に映画週間も開幕、文化庁映画賞の贈呈式が行われた。

贈呈式に先立ち都倉俊一文化庁長官は「音楽、映画、演劇は、日本が文化国家を標榜する上で基幹産業となる3本柱。国を挙げて映画業界を盛り上げていきたい」と述べた。

文化庁映画賞は、我が国の映画芸術の向上と発展のため、優れた文化記録映画(ドキュメンタリー映画)と、永年にわたって日本映画を支えてきた方々に贈られる賞。文化記録映画部門は、選考委員会による審査に基づき作品が選ばれ、各作品の制作団体に対し、賞状と賞金(大賞200万円、優秀賞100万円)が贈られる。

本年(2022年)は、大賞に、コーダ(CODA:Children of Deaf Adults。聞こえない親をもつ聞こえる子どものこと)として生まれ育った人たちの現実を捉えという「私だけ聴こえる」(松井至・監督)が選ばれた。

「この映画は、2015年に、被害市日本大震災で逃げようとしたろう者の方を助けた方々との出会いからはじまりました。そのとき“コーダ”と言う言葉を知り、この言葉が生まれたアメリカに渡り、この作品を制作することになりました」(松井至・監督)

「私だけ聴こえる」は、シネマテークたかさき(群馬)で近日公開されるほか、全国で順次上映中。

優秀賞は、うむい獅子(沖縄の獅子舞)の獅子の作者に迫ったという「うむい獅子 -仲宗根正廣の獅子づくり-」(城間あさみ・監督)と、アマゾン奥地のシュアール族の日常生活を捉えたという「カナルタ 螺旋状の夢」(太田光海・監督)が選ばれた。

002
第19回文化庁映画週間令和4年度文化庁映画賞 文化記録映画部門の受賞者。前列左から2番目より、太田光海氏、都倉俊一文化庁長官、松井至氏、城間あさみ氏(撮影/麻生雅人)

「うむいを知ってもらいたいという思いでこの映画を作りました。今日いただきましたこの大きな賞をはげみに」、これからも沖縄の光と影をどう捉え、どう伝え、どう残すのかを、考えていきながら映像制作の道を歩んでいきたいと思います」(城間あさみ・監督)

「この作品の完成まで支えてくれた多くの友人たち、僕の家族、さらにはこの作品を成り立たせてくれたアマゾン熱帯雨林の 族の方たち、特に、私の親友であり精神的父とも呼べる存在であり、実は先月亡くなってしまった主演のセバスティアン氏に捧げたいと思います」(太田光海・監督)

この作品を撮影するにあたり、単身、エクアドル南部のアマゾン熱帯雨林に分け入り、約1年シュアール族と生活をともにしたという太田監督は、アマゾンで体験した最も学んだことについて、「すべての要素が連環している、関係しあっているということが“見える”こと」だと語った。

「例えば僕たちが生きている中で、移動するのに電車に乗って、食べ物はスーパーに行けば売ってくれるから、それをお金を使って買って、水道は蛇口をひねれば水が出る…といった一連の動きがあると思うんですけど、アマゾンに行った場合、それをすべて自分でやらなければいけない。あるのはただ“自分の身体”だけで、そのうえで、その土地に存在している様々な動植物から何かをいただいて生きるんだということが、“見える”んです。それによって自分の感覚も大きな影響を受ける。そこが一度わかると、例えば東京のこういう場に来た時もどこかで全部つながっているという実感を失わずにいられます」(太田光海・監督)

そんな生活の中に身を置いて暮らしているシュアール族の人々と自然との距離感は、想像以上にすごいものだったという。

「直に、動植物や自然と触れあって、自分の生存自体が条件づけられていることによって、それらに対する知識を含めた“解像度”がどんどんあがっていくんだと思うんです。先住民の人たちは非常に高い解像度でそれと接している。僕らも、例えばこの空気美味しいなとか、この水美味しいなとか、ある程度は感じているじゃないですか。水道水を飲むのとミネラルウオーターを飲むのではちょっと味が違うなという差は分かると思うんですけど、その解像度が、彼らは細かいレベルでわかっているんじゃないかと思うんです」(太田光海・監督)

「カナルタ 螺旋状の夢」は11月5日(土)〜11日(金)の日程で金沢シネモンドにて上映。また、アマゾンプライムビデオ、U-NEXT、Rakuten TVほか配信サービスにて配信中。

映画功労部門の受賞者は以下(敬称略)。

笠松則通・撮影監督/「狂い咲きサンダーロード」(1980年)、「どついたるねん」(1989年)、「バタアシ金魚」(1990年)、「天使のはらわた 赤い閃光」(1994年)、「大鹿村騒動記」 (2011年)、「すばらしき世界」(2021年)など。

田村實・立体アニメーション撮影/「道成寺」(1976年)、「火宅」(1979年)、「おこんじょうるり」(1982年)など。

坪井一春・組付大道具/「雪の断章 -情熱-」(1985年)、「夢」(1992年)、「スワロウテイル」(1996年)、ザ・マジックアワー」(2008年)、「シン・ゴジラ」(2016年)など。

弦巻裕・映画録音/「ビリィ★ザ★キッドの新しい夜明け」(1986年)、「ロックよ、静かに流れよ」(1988年)、「誰も知らない」(2004年)、「空気人形」(2009年)、「海よりもまだ深く」(2016年)など。

安井喜雄・フィルムアーカイブ

安彦良和・アニメーター、キャラクターデザイン/「さすらいの太陽」(1971年)、「勇者ライディーン」(1975~76年)、「無敵超人ザンボット3」(1977年)、「機動戦士ガンダム」(1979年)、「クラッシャージョウ(劇場版)」(1983年)、「ヴイナス戦記」(1989年)、「機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島」(2022年)など。

安井喜雄氏は1974年に友人とプラネット映画資料図書館を設立、映画フィルムの収集、保存、運用などフィルムアーカイブ活動をスタート。2007年に神戸映画資料館を開館。収集したフィルムは18,000本を超える。

「今、正確なことは記憶していないのですが、『海外移住組合の移住地実況』はおそらく、まとめてフィルムを引き取ってくれと言われて引き取った中にあった1本だったように思います」

映像文化でもデジタル化が進み、フィルム上映の機会が減った近年、集まってくる映画は増え続けているという。

「だんだんデジタル化ということになりまして、フィルムの存在価値がだんだん薄れてきまして、ほとんど映画館もデジタル上映。学校上映もフィルムでやっていたのがなくなりまして、みなさんフィルムがいらないという不思議な時代になりまして。‌みなさんからフィルムを貰ってほしい、譲りたいといわれだんだん集まりまして、倉庫が満杯になっております。当面は、倉庫の拡充と、フィルム保存のための環境整備と、課題が山積しております。みなさんのご協力、ご支援を賜りたいと思っております」(安井喜雄氏)

また、同日、第35回東京国際映画祭が開幕した。

Sub1_Where_Is_This_Street__or_With_No_Before_And_After©Terratreme Filmes
「ワールド・フォーカス部門」で紹介されるジョアン・ペドロ・ロドリゲス監督作品「この通りはどこ? あるいは、今ここに過去はない」(画像提供/東京国際映画祭/©Terratreme Filmes)

第35回東京国際映画祭では「コンペティション」部門15作品、アジアの新しい才能を紹介する「アジアの未来」部門10作品、日本公開前の最新作をプレミア上映「ガラ・セレクション」部門14作品、「ラテンビート映画祭」や「東京フィルメックス」ともコラボレーションしている「ワールド・フォーカス」部門17作品など、多様な部門別に11月2日(月)まで10日間にわたって世界各国の作品が紹介される。

今年(2022年)は残念ながら上映作品の中にブラジル映画は選ばれなかったが、「ワールド・フォーカス部門」では「鬼火」と「この通りはどこ? あるいは、今ここに過去はない」、共にジョアン・ペドロ・ロドリゲス監督によるポルトガル映画が紹介されている。

(文/麻生雅人)